今週月曜〜水曜に千葉県内で行われた日本代表候補合宿では、新戦力の台頭が目立った。筑波大との練習試合では、「平成生まれのシンジ」こと香川真司(C大阪)や追加招集された赤嶺真吾(FC東京)、ジーコ・ジャパン時代以来の代表候補入りとなった永井雄一郎(浦和)がゴール。岡田武史監督も代表のメンバー構成再編を示唆するなど、6月の2010年南アフリカW杯アジア3次予選4連戦に向け、それなりの手ごたえを感じさせたキャンプだったという。
ところがその直後、指揮官も高評価を与えた新戦力の1人が逮捕されるというショッキングなニュースが流れた。19歳だった7年前の下着泥棒容疑であるため、実名報道が控えられているものの、その経歴から茂原岳人(柏)であることは明らかだ。
彼には川崎フロンターレに所属していた2006年3月には、1人暮らしの女性宅に侵入したとして逮捕(不起訴)された過去がある。ボランティア活動を行うなどで再起を図り、ようやく日本代表候補まで上り詰めた矢先の出来事だっただけに、本人も周囲も衝撃を受けたはずだ。
茂原は川崎Fを解雇された後、ヴァンフォーレ甲府に練習生として加入。そこで実績を積み重ね、甲府のJ2降格を機に今季から古巣の柏に復帰した。今シーズンの柏はエースストライカーのフランサをケガで欠き、大苦戦を強いられているが、彼だけはFWや左ウイングのポジションで異彩を放っていた。もともと非凡な打開力を持った選手で、強引なドリブル突破やチャンスメークではつねに相手DFを脅かしていた。それだけの高い個の力を持つ選手はJリーグ全体を見渡しても珍しい。
そのプレースタイルのみならず、荒々しいメンタリティーも日本人離れしていた。アルコール依存症に陥りながらも類稀なサッカーセンスとテクニックを示し続けたポール・ガスコイン、相手選手にとび蹴りを見舞うという暴力事件を起こしながらも凄まじいゴールラッシュを見せつけたエリック・カントナなど、世界を見渡せば、奇人のサッカー選手は何人かいる。茂原もそうなる可能性を秘めた日本では数少ない選手だった。甲府時代には大木武監督(現日本代表コーチ)がその才能に着目し、彼を重用していた。そんな恩師の推薦もあったのだろう。岡田監督が目をつけるのも当然のなりゆきだった。
新聞報道によれば、今回の日本代表合宿で指揮官は「独特な選手だ。感性もいいし、面白い発想をする。パスコースも1つ先を見ている」と茂原のことを絶賛していたらしい。彼のように1人で攻撃に変化をつけられる選手は確かに今の日本代表にはいない。それだけに期待は大きかったに違いない。
どうしてそんな事件を起こしたのか、まだ詳しい事情は分からない。が、2度目の逮捕となると、厳しい対応は必至だろう。柏の解雇は確実で、日本サッカー協会としても永久追放などの重い処分を採ると見られる。まさに「これから」という時のこの事件は苦境に立たされている日本代表にとっても痛い事件だったといえる。
昨年の菊地直哉(イエナ/ドイツ2部)、今回の茂原と若い世代で将来性のある選手が次々と可能性の芽を摘まれていくのは、日本サッカー界にとってマイナスでしかない。Jクラブは今一度、選手教育を見直さなければならないだろう。
実際、日本代表クラスの選手を見ても、ロクに挨拶もできない選手が少なくない。練習後の取材対応にしても、車に乗ってエンジンをかけた状態で窓ガラスを開けて記者の質問に答えるという形を取っているチームが多いが、こんなやり方で社会常識が身につくはずがない。Jリーグの名門である鹿島アントラーズや浦和レッズでさえ、この方式を取っているのだから、やはり問題だ。きちんと人と接するつもりがあるなら、車には乗らず、真正面から記者と接して目を見て話すこと。そんな立ち振る舞いの重要性を、クラブ側や日本サッカー協会はしっかり教えなければならないはずだ。
最近の日本代表には中村憲剛(川崎F)や橋本英郎(G大阪)のような大卒インテリ選手が増えてきたが、まだまだ常識を逸脱した行動を取る選手もいる。今回の茂原の問題を「たまたま」だと思っていたら、同じような事件が今後も起きる可能性は高い。今回の事件を「他山の石」にしなければならないこと。勝つことだけをメディアやファンは求めているのではない。日本代表強化の前に、そういうベースの部分を今一度、再確認してほしい。